ハルジオン。
「馬鹿……」

手に持っていた新色のリップを鏡に向かって放り投げる。

――カツン

乾いた音がするのと同時に、部屋のチャイムが鳴った。



「……ごめん」

部屋に入るなり、翔は玄関で百合子を抱きしめ、あの夜のことを謝った。

「いいの」

小さく首を振り、翔の胸を押し返す。

「悪いのは私だから」

「違うッ!」

翔は百合子をもう一度抱きしめ、膝から崩れ落ちた。

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