ハルジオン。
「……違う……違うんだ」

玄関に両膝をつき、百合子の腰にしがみつくと、翔は子供のように泣きじゃくりながら同じ言葉を繰り返した。

「俺、ダメなんだ……百合子が居てくれないとダメなんだ」

「……」

百合子は唇を噛んだ。

細い息を吐き出す。

「……私ね、明日会社に辞表」

「ダメなんだよ!」

「翔……」

「頼むよ。百合子がいなけりゃ……俺、もう生きていけないんだ」

「……や」

ドサリ、と玄関に押し倒される。

押し返そうとする手を握られ、強引に唇を奪われる。

白い頬に、涙が伝い落ちた。

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