ハルジオン。
「たどり着けたのかな?」

「え?」

不意な言葉に、アキトは一瞬何のことか分からなかった。

「旅人だよ」

「……ああ、どうかな」

興味なさげに返し、まだマークされていない方の山道へと足を踏み出す。


『夢はあるか?』


旅人の声が脳裏をよぎる。

目の前の蜘蛛の巣を棒で払いのけ、アキトは初めて旅人と出会った時のことを思い起こしていた。

その声も、表情も、今でもはっきりと覚えている。

今まで出会った誰よりも優しくて、暖かい人だった。

……母さんよりも。

< 146 / 339 >

この作品をシェア

pagetop