ハルジオン。
鬱蒼と茂る木々の匂いの中で、ふと達也は懐かしい声を聴いたような気がして、足元を見下ろした。

もちろん、そこに二人の姿はなくて。

今登ってきた木の枝と、その下に愛染窟の洞穴と地面が見えるばかり。

「……空耳か」

ジッと足元を見つめたまま、達也は自嘲気味に呟いた。

――思えば、

自分は恵まれていたのかも知れない。

もしあの二人が居なければ、きっと自分の過去はもっともっとつまらないモノばかりだったに違いない。

達也はいつの間にか楽しそうに木登りを続けるアキトを見上げた。

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