ハルジオン。
湧き水のせいだろうか、滝壷の水は凛と冷たく、肌をチリチリと刺した。

二人は岩場に登ると、ずぶ濡れの服の裾を絞り、髪を掻き上げた。

森の静寂が体温を奪っていく。

風が凪いでいることだけが、わずかに救いだった。

シンと冷えた森の中に、二人が立てる物音と吐息だけが溶け込んでいく。

達也は改めてこの深い谷底のような滝壷を眺め、耳を澄ました。

カラン、コロン……

と、どこからともなく泉の水が流れていく音が聞こえてくる。

「……滝だ」

アキトは、二十メートルは越えると思われる高い滝の頂を見上げた。

< 199 / 339 >

この作品をシェア

pagetop