ハルジオン。
「……螢」

達也の手を握りしめ、アキトが譫言のように呟いた。

ホタル……

霞みそうな頭を振り、もう一度対岸に目を向ける。

すると、さっきまで滝の頂あたりで揺らいでいた螢が、いつの間にか牡鹿の周りに集まっていることに気がついた。

誘われている。

いや、見守られていると言った方がいいだろうか。

直感的に、達也は今こそ願いを伝える時なのだと悟った。

体はずぶ濡れのままだった。梅雨時期の夜にこれでは風邪をひいたっておかしくない。なのに不思議と寒さは感じなかった。

「アキト」

「……うん」

達也の手をもう一度強く握り直し、アキトはコクンと頷いた。

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