ハルジオン。
達也は少年の頭をぐしぐしと撫で、静かに瞳を閉じた。

アキトもそれに倣う。

風が凪ぎ、虫の音や、葉ずれの音が、まるで灯を消すようにひたひたと消えていく。

呼吸が止まる。

やがて、森の中で唯一聞こえていた滝流の音までもが消えた。

静寂が、泉を包んでいた。

その中に立つ二人には、もはや言葉はいらなかった。

口に出さなくても、願いはこの森中を駆けめぐり、天に届くに違いない。

そう思えた。

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