ハルジオン。
目の前に、アキトのトランプが一枚だけ落ちていた。

スペードのエース。

滝壺から引き上げた時に落ちたのだろう。


『さよなら、オジサン』

『大好きだよ』

アキトの声が聞こえた。


「……馬鹿野郎が。一度くらいちゃんと名前で呼べっつーんだよ」

トランプを拾い上げ、泣き笑いの顔で呟く。
もう限界だった。

岩の上でゴロリと仰向けに寝転がる。もはや指一本動かせない。

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