ハルジオン。
それは、すべてを許してしまえる魔法の微笑みだった。

言葉に詰まり、視線を宙に漂わせる。

目を伏せ、溢れる涙を堪えながら、手にした棒を焚き火に突っ込んだ。

夢だって分かってる。

母さんはもう居ない。そんなことは分かっている。

それでも嬉しかった。

痩せた頬を見れば、おそらくもう長くはないのだろうと分かった。

それでも母は一生懸命生きていた。

幸せそうに"僕"の頭を撫でて……

『うああ……』

達也はくぐもった啼き声をこぼし、緋色に染まる空を見上げた。

――ゴーン、ゴーン……

寺の鐘に驚いた雀たちが、境内の木々の中から一斉に飛び立っていく。

その小さな飛影を、達也はいつまでも見上げていた。

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