ハルジオン。
「ほら、その一本松の先に、左に折れる坂道が見えるでしょ?」

「あ、はい」

「その坂を少し登って……」

見れば、道に出てきた郵便局員が、畳んだ扇子で小高い山の麓を差し示している。

どうやら割に近いらしい。

「ありがとう」

百合子は涼やかに礼を言い、達也に向かって両手で大きな輪を作って見せた。

「近いみたいよ」

「らしいな」

駆け戻る百合子に笑顔で応え、紙袋を手にゆるりと歩き出す。

「あ、待ってよ!」

百合子が慌ててその後を追いかけた。

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