ハルジオン。
――十六年前、

暖かい夕日に包まれた坂の上で、達也は父に抱き上げられ、キラキラと乱反射する水田を見つめていた。

「父ちゃんの匂いだ」

父のシャツにしがみつき、くんくんと鼻をこすりつける。

微かに煙草の匂いがした。

「達也」

篤史は四歳になったばかりの息子を砂利道に下ろし、目線の高さまで屈んで、

「いい眺めだろ?」

と、大きな手のひらで何度も何度も達也の頭を撫でた。

「ながめ?」

達也が首を傾げる。

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