ハルジオン。
達也が黙っていると、篤史はいつも機嫌良さそうに逸子のことを話して聞かせた。

――不思議だった。

母の話をしている時の父は本当に楽しそうで、それだけに「何故?」という疑念が達也の胸に渦巻いた。

『じゃあ何で母ちゃんを見殺しにしたりしたんだよ?』

口に出しては言えない。

言ったが最後、必ず狂ったような形相で殴られた。

同じことが何度もあった。

ひとしきり息子を殴りつけた後、上着を引っ掴んで玄関を出て行く父の背中を見つめながら、達也は呟いた。

「死んじまえよ」……と。

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