ハルジオン。
「たっくん、行こ」

再び石段を登り始めた逸子の頬を、冷たい秋風がすり抜けた。

――寒い。

背中が寒い。

逸子は長袖の上から腕をさすった。


「いっちゃんかい?」

長い石段を登り切った時、ふいに寺の境内から声がした。

振り向くと、懐かしい顔が夕焼けの中で微笑んでいた。

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