剣と日輪
公威は、邦子の念慮(ねんりょ)を会(かい)了(りょう)した。灰皿に乱雑に煙草を押付けた。すると花瓶(かびん)が横転し、テーブルは覆水(ふくすい)で溢れた。
ウエイトレスが布巾(ふきん)で、卓上を拭(ふ)いた。
「済みません」
公威は謝(しゃ)し、
「行こうか」
と邦子に同意を求めた。
「ええ」
両人には三十分の暇(いとま)しかない。偽(にせ)の不義のカップルは、最終の時会(じかい)を費(つい)やしに、ダンスホールに入店した。店内は、
「失われた第二世代達」
の巣窟(そうくつ)である。クーラーは、殆(ほとん)ど空転している。背広姿のサラリーマンも、弾(はじ)けていた。
(何故こんな所を、最後の場所にしてしまったのか)
公威には、答えは無い。
喧騒(けんそう)を奏(かな)でるバンドマンの傍(かたわ)らに、半裸(はんら)でアロハシャツを着こなしているヤンキーがいる。ふてぶてしい態度で、一団の中心にいた。丸で毒蛇が、トグロを巻いているかの様に。スネークの筋肉質の二の腕には、牡丹(ぼたん)が刺青(いれずみ)されている。公威は牡丹(ぼたん)のタトゥーをした無頼漢に、瞳を奪われていた。
(ああいう風になりたい)
公威の野生が頭を擡(もた)げた。
(彼の引き締まった肉体は、何時かナイフの餌食となり、苦海の中で、あの男は息絶えるだろう)
公威のスクリーンには、そのシーンが、恰(あたか)も殉教の場面の如く映し出されている。
「後五分で、帰らなくては」
ウエイトレスが布巾(ふきん)で、卓上を拭(ふ)いた。
「済みません」
公威は謝(しゃ)し、
「行こうか」
と邦子に同意を求めた。
「ええ」
両人には三十分の暇(いとま)しかない。偽(にせ)の不義のカップルは、最終の時会(じかい)を費(つい)やしに、ダンスホールに入店した。店内は、
「失われた第二世代達」
の巣窟(そうくつ)である。クーラーは、殆(ほとん)ど空転している。背広姿のサラリーマンも、弾(はじ)けていた。
(何故こんな所を、最後の場所にしてしまったのか)
公威には、答えは無い。
喧騒(けんそう)を奏(かな)でるバンドマンの傍(かたわ)らに、半裸(はんら)でアロハシャツを着こなしているヤンキーがいる。ふてぶてしい態度で、一団の中心にいた。丸で毒蛇が、トグロを巻いているかの様に。スネークの筋肉質の二の腕には、牡丹(ぼたん)が刺青(いれずみ)されている。公威は牡丹(ぼたん)のタトゥーをした無頼漢に、瞳を奪われていた。
(ああいう風になりたい)
公威の野生が頭を擡(もた)げた。
(彼の引き締まった肉体は、何時かナイフの餌食となり、苦海の中で、あの男は息絶えるだろう)
公威のスクリーンには、そのシーンが、恰(あたか)も殉教の場面の如く映し出されている。
「後五分で、帰らなくては」