剣と日輪
「爺ちゃんが若い頃仕えとった原敬首相程の人物やないやろうけど、何や剃刀なんて言われとる位やからな。うまくやるんとちゃうか。というより、うまくやってもらわんとな」
 定太郎は急に顔を強張らせ、
「日本は滅びるで」
 と脅した。
「滅びるって?」
「公ちゃんも爺ちゃんも、公ちゃんの父母妹弟皆死ぬんや」
「ほんと?」
「ああ。日本が負けたら、きっとそうなる。逆に勝ったら、世界は日本とドイツのもんやな。世界の半分の人々が日本語を喋り、日本は世界一ニの大国になる」
「ふうん。そりゃいいね」
 公威は現金なものである。今し方の気鬱は吹っ飛んでいる。それが若者という無知無謀の輩なのだろう。公威は微力ながら、
(御国の役に立ちたい)
 と願い、
(生き延びて)
 と祈った。
 誰もが戦の雷鳴を天上に感知し、戦雲の夢の到来を予期していた。敵も味方も勝利を夢想し、蒼天を暗雲の彼方に掌握(しょうあく)せんと模索していたのである。
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