剣と日輪
 ニューヨークには、国際連合本部がある。東京以上の繁華街(はんかがい)を散策(さんさく)するのは、新鮮だった。
(ニューヨークは、正に世界の主(しゅ)都(と)だな)
 摩天楼(まてんろう)の林立(りんりつ)するマンハッタンは日陰が多々有り、ビル風は東京の数倍は吹く。
(東京も、こんな街になって行くのだろう)
 ロスの広々とした都市空間は、河口の三角州たるマンハッタンには無縁である。
(肌に合わぬ)
 公威にはニューヨークの人工美が、
「無法者の武力国家アメリカ」
 の物欲主義のシンボルとしか映らなかった。建国百七十六年の新興国家が、建国二千六百十二年の日本を占拠(せんきょ)し、居座っている。合衆国は浅墓(あさはか)な主義主張を他国に押付け、憲法(けんぽう)や政治制度、教育迄改悪してしまった。更に今後も倭(わ)国(こく)に軍を常駐(じょうちゅう)し、未来(みらい)永劫(えいごう)属国(ぞっこく)にせんとしている。
(戦勝国とは言え、やり過ぎではないか)
 公威の憤(いきどお)りをマンハッタン島で叫んでみても、
「右翼の戯言(たわごと)」
 なのだった。
 黒澤明の、
「羅生門(らしょうもん)」
 が封切られていたので、ブロードウエイの映画館で鑑賞(かんしょう)した。
 被占領国の映画の出来に、超大国アメリカの観客が、喝采(かっさい)を送っていた。
「羅生門」
 の一視聴(しちょう)者たる公威は、この場景(じょうけい)にナショナリズムを、掻(か)き立てられずにおれない。
(日本には芸術とスポーツ、学問しか、世界と競合(きょうごう)できる分野はない)
 やや侘(わび)しい見方(みかた)であったが、真実を穿(うが)っていた。
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