剣と日輪
「作家三島由紀夫」
 の盛名(せいめい)は、海内(かいだい)に轟(とどろ)き渡っている。
 公威は弱冠(じゃっかん)三十歳である。無論、
「文学こそ我が命。生涯を賭けるべきもの」
 と情知(じょうち)しているが、後何十年もあるであろう余命を、職人の如く、
「極(きわ)める」
 ことのみに専心(せんしん)しようとは規定できない。
「平岡公威」
 として、生身(せいしん)を上昇させてみたかった。
 昭和二十年を境として日本人は、
「エコノミックアニマル」
 と化し、コミュニストやアナーキストに脳内を汚染(おせん)されていきつつある。このままいけば、何れ日本は国家としての指針(ししん)や活力(かつりょく)を失い、在(あ)り来たりな、特色の無い、君主国でも共和国でもない、
「日本国」
 という顔なし邦土(ほうど)となっていくであろう。下手をすれば、来世紀には合衆国の一州か、ソ連の一社会主義共和国になっているかもしれなかった。
「何とか祖国日本を、亡国の危機から救わねばならない。救国済(きゅうこくさい)民(みん)こそ、これから命を賭けるべき壮挙ではないか。独立独歩できる日本帝国を、取り戻すのだ」
 終戦から十年を経、
「最早戦後にあらず」
 と民人(みんじん)も日本民主党政権も、浮かれ始めている。朝鮮戦争は、
「朝鮮特需(とくじゅ)」
 という日本経済復活の烽火(のろし)を上げさせ、
「赤の脅威」
 は警察予備隊を発足させた。
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