剣と日輪
「俺の城」
 だった。
 鉾之原は専門書はよく読むが、文学と名のつく代物は大嫌いで、
「三島由紀夫」
 の名さえ知らない。
(こいつは相当の悪漢(あっかん)だな)
 と呆れ、
「では、西部劇の敵(かたき)役の親分の住処(すみか)みたいな屋敷でいいんですね」
 と確かめた。
「そう。悪玉の砦(とりで)みたいな建物がいい」
 公威は嬉娯(きご)している。
「面白い。是非やらせてください」
 公威は最後に付け加えた。
「不統合な統合、頽廃(たいはい)的でない美、地中海とカリブ海の波光(はこう)のイメージ。それで頼みます」
 鉾之原は不得要領ではあったが、がっしりと握手を交わした。公威の腕毛がやけに目に付く。
(信長の安土城を依頼された設計師も、こんな気持ちだったのかな)
 鉾之原は、
(一生の仕事になるかも)
 と希覬(きき)しつつ、新潮社を退出したのだった。
 十月十三日、鉾之原は平岡家を訪問し、公威に新邸の青写真を提要(ていよう)した。公威は、
「庭のど真ん中にこれを据えたい」
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