剣と日輪
石津恭輔
だった。必勝は、
「骨折が完治するまでまだ時間がかかる。三月一日には間に合わないですよ」
と断ったが、
「遅れてもいい。兎に角参加しろ。場所は陸上自衛隊富士学校滝ヶ原分とん地だ。君は経験者だ。皆を引っ張ってくれ。頼む」
と斉藤が拝み倒すので、必勝も断りきれなくなり、諾意(だくい)を漏らしてしまった。斉藤の、
「よかった。恩に着るよ。新人募集は俺が責任持ってやっとくから、安心してくれ」
という声差(せいさ)を耳にしながら、
(とんだ穴埋めだな)
と必勝は後悔していた。
三月に入り、骨折が治癒せぬまま必勝は上京した。
「これ以上引き延ばしていたら、訓練に間に合わなくなる」
と自覚したからである。
右足を引き摺りつつ新宿区戸塚町一丁目百九十四番地に在るマンション、
「早稲田ハウス」
の三階D号室に必勝が靴を脱ぐと、矢野潤、宮崎正俊、斉藤英俊が大歓迎してくれた。
三名は、
「三島さんとは、同じ道は歩めない。然しながら三島さんと我等の目的地は一緒なのだ。日学同と三島さんの間の溝には、清流が流れていなければならない。森田、お前はその清流を泳ぐ鯉になってくれ」
と口をそろえて必勝の気高い役割を説いた。必勝はやる気になり、
「三島さんと日学同を結ぶ虹になります」
と発奮したのだった。
だった。必勝は、
「骨折が完治するまでまだ時間がかかる。三月一日には間に合わないですよ」
と断ったが、
「遅れてもいい。兎に角参加しろ。場所は陸上自衛隊富士学校滝ヶ原分とん地だ。君は経験者だ。皆を引っ張ってくれ。頼む」
と斉藤が拝み倒すので、必勝も断りきれなくなり、諾意(だくい)を漏らしてしまった。斉藤の、
「よかった。恩に着るよ。新人募集は俺が責任持ってやっとくから、安心してくれ」
という声差(せいさ)を耳にしながら、
(とんだ穴埋めだな)
と必勝は後悔していた。
三月に入り、骨折が治癒せぬまま必勝は上京した。
「これ以上引き延ばしていたら、訓練に間に合わなくなる」
と自覚したからである。
右足を引き摺りつつ新宿区戸塚町一丁目百九十四番地に在るマンション、
「早稲田ハウス」
の三階D号室に必勝が靴を脱ぐと、矢野潤、宮崎正俊、斉藤英俊が大歓迎してくれた。
三名は、
「三島さんとは、同じ道は歩めない。然しながら三島さんと我等の目的地は一緒なのだ。日学同と三島さんの間の溝には、清流が流れていなければならない。森田、お前はその清流を泳ぐ鯉になってくれ」
と口をそろえて必勝の気高い役割を説いた。必勝はやる気になり、
「三島さんと日学同を結ぶ虹になります」
と発奮したのだった。