剣と日輪
「行ってこい。期待してるぞ」
「はい」
 
 必勝は勇往(ゆうおう)西下し、静岡県駿東郡小山町須走にある陸上自衛隊富士学校に体験入隊したのだった。同郷の三重県亀山市出身の山本之聞等日学同特使が、必勝を迎(げい)侯(こう)してくれた。五名はベッドが並列する大部屋で、肩を叩き合う。
「やっと揃ったな。これからが日学同の腕の見せ所だな」
 大石晃嗣がおどけた。心なしかどの同志達も疲弊(ひへい)して見えた。
(これは、相当覚悟せねば)
 日学同特使達の灰色の皮膚に、必勝は数ヶ月前の北海道とは比べ物にならぬ練磨(れんま)の度合を推し量っていた。
「今から入浴だ。どうだ一緒に入らんか」
 石津恭輔が必勝を促した。
「あ。タオルない」
「浴場に備え付けてあるよ」
 武井宗行がさっさと出掛けていく。
「あ、そう」
 必勝は旅(りょ)塵(じん)を落すべく、模擬隊員の列に加わったのである。

「ふうーっ」
 山本之聞を始めとして、体験入隊の学生達は、息をつく。入浴タイムは、彼等にとって砂漠のオアシスのようなものなのだ。湯船に浸かりながら、必勝は祖国防衛隊を名乗る学生達に、訓練の内容を彼是(あれこれ)質疑した。
「起床は六時。九時が消灯時間だ」
「おおっ。九時間も寝れるのか」
 山本はニヤリとなった。
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