剣と日輪
 再び起立しかけた必勝の左肩を、公威の腕毛ぼうぼうの右腕が抑えた。
「まあまあ。無礼講だ。皆同じ志に生きる同志だ」
 円らな両眼と丸坊主の必勝を、公威は人別できている。
「昨年の夏以来だな」
「はい。覚えていてくださいましたか」
「覚えていたとも。何故君が持丸君達と一緒に日学同を脱退しなかったのか、不思議だった」
「はあ」
 必勝には必勝の都合がある。公威は返答に窮する必勝に、更にアプローチしてきた。
「北海道の体験入隊はどうだった?」
「はい!自衛隊の方々と触れ合う機会を得て、色々意見を聞けたのは、よかったです」
「ほう。どうよかったのかな」
「はい。隊員も一個の人間です。様々な意見を持っていて、併し自衛隊の組織の一員たる以上、個々の意思を秘め、自衛隊の一兵士として生きねばならない辛さを、皆さんが刻苦していたことが、一番胸に滲みました」
「ふむ。組織の一員たる厳格さを教わったのか」
「そうであります」
「そうか。学生は自由だからな。特に今日びの学生は」
「だから自分はあれ以来、バイトと遊びに勤しんでおり、実を言うと昨年の日学同の分裂劇の蚊帳の外にいました。面目ない」
 必勝は五分刈の頭皮を撫でている。
「そうだったのか。そりゃあいいや」
 公威は淡(たん)爾(じ)たる涵煦(かんく)を、必勝達に与えようとしている。参加学生の中には兵士失格としか識別されようのない者もいたが、公威は率先して労苦に飛び込み、親鳥の心模様で、
「祖国防衛隊」
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