剣と日輪
「ええ。骨折が完治していないのです」
「そうですか」
「戦場では」
 公威は山本一佐を睨んだ。
「例え重傷を負っていても戦わねばならない時もある。そうでしょう?」
「よくご存知だ」
 山本一佐は時折表に出てくる公威の憂憤(ゆうふん)の迫力に、肩透しをくらわせる癖がある。
「軍人」
 を名乗れない、
「自衛官」
 の哀恨(あいこん)の習性であろう。山本一佐は公威に惹き込まれるようにして、トラック上の必勝を追った。
(円谷二尉みたいだ)
 自殺したオリンピックの悲劇のヒーローと、必勝の走りは全然違うが、何故か重なって映った。
「円谷二尉みたいでしょう」
 必勝は同意を求めるでもなく、そっと決めつけていた。
 公威は山本一佐、連隊長と午食を共にした。山本一佐が約束どおり公務の合間を縫って、海のものとも山のものとも分からぬ学生の様子見に、駆けつけてきてくれたのである。
「是非青年達に、ひきあわせて欲しい」
 山本一佐の積極的な申し出に、公威は早々に箸を置いた。
「少しお待ちください」
 公威は席を立った。
 ややあって、
「山本一佐殿、どうぞ」
 と公威自ら一階の広間に誘導してくれた。山本一佐が入室するや、二十名の若者達が直立不動の姿勢で敬礼をした。

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