剣と日輪
山本一佐は巧妙な共産主義者の世界征服計画の一端を詳述し、その実例を挙げ、対策を講じた。対ゲリラ戦の講義、演習は折からの国内外の政情と相まって進展していき、五月下旬から六月上旬にかけて、連日にわたる講義、実地訓練が行われたのである。
五月二十七日月曜日には、
「情報勤務全般の概念」
が講義演目となった。教室は目黒区にある、旅館の一室である。本日の講義内容は予告されており、公威は並々ならぬ意気込みで開始時間丁度に現れ、遅刻してきた早稲田の大学生を、
「やる気の無いものはいらん!」
と叱責した。
公威が怒鳴った事は、今まで一度も無かった。教室となった客間には俄に緊張の糸が張り、祖国防衛隊員は咳一つせず、山本一佐の講義にのめり込んでいった。
山本一佐は、
「情報勤務全般」
の事例として、
「能代事件」
を取り上げた。
この事件は昭和三十八年四月一日と、五月十日に発覚したもので、スパイ事件だった。四月一日秋田県能代市浜浅に、二人の身元不明の遺体が打ち上げられていた。ボートが密入国直前に転覆し、溺死したものである。一名は日本人、もう一名は北朝鮮人だった。北朝鮮人は下着に暗号と解読用乱数表を縫付け、現金十一万四千円、一万千百米ドル、ソ連製拳銃、日本名で偽造した名刺と運転免許証、時刻表、地図等を携えていた。東京、大阪でスパイ活動をする予定だったらしく、東京、大阪間の道路地図もあった。
「これがその時の溺死体だ。回覧して下さい」
五月二十七日月曜日には、
「情報勤務全般の概念」
が講義演目となった。教室は目黒区にある、旅館の一室である。本日の講義内容は予告されており、公威は並々ならぬ意気込みで開始時間丁度に現れ、遅刻してきた早稲田の大学生を、
「やる気の無いものはいらん!」
と叱責した。
公威が怒鳴った事は、今まで一度も無かった。教室となった客間には俄に緊張の糸が張り、祖国防衛隊員は咳一つせず、山本一佐の講義にのめり込んでいった。
山本一佐は、
「情報勤務全般」
の事例として、
「能代事件」
を取り上げた。
この事件は昭和三十八年四月一日と、五月十日に発覚したもので、スパイ事件だった。四月一日秋田県能代市浜浅に、二人の身元不明の遺体が打ち上げられていた。ボートが密入国直前に転覆し、溺死したものである。一名は日本人、もう一名は北朝鮮人だった。北朝鮮人は下着に暗号と解読用乱数表を縫付け、現金十一万四千円、一万千百米ドル、ソ連製拳銃、日本名で偽造した名刺と運転免許証、時刻表、地図等を携えていた。東京、大阪でスパイ活動をする予定だったらしく、東京、大阪間の道路地図もあった。
「これがその時の溺死体だ。回覧して下さい」