剣と日輪
遠藤秀明も同意せざるを得ないような夏の日であった。
一行は沖合いの島まで往復六キロを泳ぎ切った後、海浜でリラックスしていた。田中健一がコカコーラの瓶を片手に先程遠泳してきた小島を指した。
「北海道の納沙布岬から、北方領土の貝殻島まで、丁度今泳いだくらいの距離しかないんだぜ」
「そうか。あの程度か」
宮崎正弘に続いて必勝が高音を弾ませた。
「だったら泳いで渡れるな」
「そうだなあ」
遠藤が同調した。部員達は無言裡に賛同していた。
必勝を団長とする早大国防部北方領土視察団は、八月に納沙布岬を巡察した。必勝と遠藤は貝殻島上陸を果たそうとしたが、未遂に終わった。
遠藤は密航決行時必勝に、
「躊躇(ためら)い」
が見られたことに失望していた。以後必勝を、
「口先だけの徒」
と断定して日学同から疎遠になり、二年後西ドイツのマインツ大学に留学する。必勝は遠藤の冷(れい)眼(がん)に弁解せず、
「死に場所」
を探しだしたのだった。
必勝は終戦記念日に靖国神社に現れ、靖国神社の国営化を訴える、
「靖国法完徹全国大会」
で学生代表としてスピーチした。必勝の演説は鬼気を帯び、二月前の、
「全日本学生国防会議議長就任の挨拶」
一行は沖合いの島まで往復六キロを泳ぎ切った後、海浜でリラックスしていた。田中健一がコカコーラの瓶を片手に先程遠泳してきた小島を指した。
「北海道の納沙布岬から、北方領土の貝殻島まで、丁度今泳いだくらいの距離しかないんだぜ」
「そうか。あの程度か」
宮崎正弘に続いて必勝が高音を弾ませた。
「だったら泳いで渡れるな」
「そうだなあ」
遠藤が同調した。部員達は無言裡に賛同していた。
必勝を団長とする早大国防部北方領土視察団は、八月に納沙布岬を巡察した。必勝と遠藤は貝殻島上陸を果たそうとしたが、未遂に終わった。
遠藤は密航決行時必勝に、
「躊躇(ためら)い」
が見られたことに失望していた。以後必勝を、
「口先だけの徒」
と断定して日学同から疎遠になり、二年後西ドイツのマインツ大学に留学する。必勝は遠藤の冷(れい)眼(がん)に弁解せず、
「死に場所」
を探しだしたのだった。
必勝は終戦記念日に靖国神社に現れ、靖国神社の国営化を訴える、
「靖国法完徹全国大会」
で学生代表としてスピーチした。必勝の演説は鬼気を帯び、二月前の、
「全日本学生国防会議議長就任の挨拶」