剣と日輪
 共産主義・無政府主義者の投石が、飛交う。公威の鋼(はがね)の肉体に、雷電が走った。
(これが、武者震いというものか)
 四十三歳の初陣に公威はいきり立ち、飽くことなく観戦武官みたいに振舞っていた。
(何時の日か、こいつ等と一戦交える時が来るに違いない)
 公威は敵前視察にのめり込み、素顔を隠した共産主義・無政府主義者に眼を飛ばし、職務に忠実な機動隊諸氏を頼もしく感じたのだった。
 昼過ぎ公威は、
「腹が減っては戦が見れぬ」
 と冗談を飛ばしながら銀座を後にし、山本一佐が設けた赤坂の拠点で、楯の会メンバー、それに山本一佐等と落ち合った。
 ランチを胃に掻き込みながら、公威は明らかに昂奮し過ぎていた。このままいけば争乱の真只中に突っ込んでいきそうな勢いを、山本一佐は打ち消したかった。
「いかがです、食後の一杯」
 山本は角瓶をちらつかせた。
 山本のプロならではの細心に対し、
「この非常時に酒とは、何ですか!」
 と公威は本気で山本一佐を、詰った。こんな公威を、誰も見たことが無い。公威はそのまま席を立ってしまった。山本一佐は憤然たる公威の後姿に、
(俺は大変な怪物を、育ててしまったかもしれない)
 と空恐ろしくなったのだった。

 共産主義・無政府主義者は同時多発テロによって機動隊の分散を図りつつ、日没と共に新宿駅一帯に集結、付近を占拠してしまった。
 ここに到って、政府は自衛隊の後方支援を裁可した。新宿駅構内の電車は暴徒に損壊され、駅舎は赤のバリケードと化した。都内の不平分子が新宿駅に吸い寄せられるように群がり、五万人が新宿駅周辺に割拠した形となった。
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