剣と日輪
必勝に頭部を摩(さす)られて、威一郎はくすぐったがる。
「何もございませんが」
と母親である瑤子の口真似をした。照れ隠しだろう。一同爆笑する中、
「いいなあ子供って。俺も早く欲しい」
と必勝が貪(むさぼ)り欲した。
応接室まで、威一郎は付いて来る。
(三島さんも、子供に甘いなあ)
威一郎は必勝の隙を見つけては、木刀を打ち込んでくる。公威によれば、
「御父さんが隙を見せたら、何時でも撃ちかかってきてよろしい」
と言い含めてあるらしく、威一郎には悪びれた素振りもない。威一郎は必勝にばかり、木刀を打ち込んだ。
(俺は親爺じゃねえよ)
必勝が威一郎に閉口してあしらっている内に、山本が用件を伝えた。
「十二月七日に予定されている日学同二周年の記念大会で、講演をして欲しい」
という案件である。大会実行委員長は、必勝だった。
公威は到頭威一郎を、叱った。
「一寸あっちへいってなさい」
「はあい」
威一郎はすごすごと木刀を納め、下がった。上気し、遊びつかれた様である。
「これまでの経緯はともかく」
公威はぎょろりと、目玉を剥(む)いた。
「森田、君が実行委員長だったら、行こう」
その刹那、必勝の忠款(ちゅうかん)が破裂した。
(感激という語彙(ごい)とは、こういう感情だったのか)
必勝は身の振るえる程の感心を、二十三年の半生で初めて味わった。
「何もございませんが」
と母親である瑤子の口真似をした。照れ隠しだろう。一同爆笑する中、
「いいなあ子供って。俺も早く欲しい」
と必勝が貪(むさぼ)り欲した。
応接室まで、威一郎は付いて来る。
(三島さんも、子供に甘いなあ)
威一郎は必勝の隙を見つけては、木刀を打ち込んでくる。公威によれば、
「御父さんが隙を見せたら、何時でも撃ちかかってきてよろしい」
と言い含めてあるらしく、威一郎には悪びれた素振りもない。威一郎は必勝にばかり、木刀を打ち込んだ。
(俺は親爺じゃねえよ)
必勝が威一郎に閉口してあしらっている内に、山本が用件を伝えた。
「十二月七日に予定されている日学同二周年の記念大会で、講演をして欲しい」
という案件である。大会実行委員長は、必勝だった。
公威は到頭威一郎を、叱った。
「一寸あっちへいってなさい」
「はあい」
威一郎はすごすごと木刀を納め、下がった。上気し、遊びつかれた様である。
「これまでの経緯はともかく」
公威はぎょろりと、目玉を剥(む)いた。
「森田、君が実行委員長だったら、行こう」
その刹那、必勝の忠款(ちゅうかん)が破裂した。
(感激という語彙(ごい)とは、こういう感情だったのか)
必勝は身の振るえる程の感心を、二十三年の半生で初めて味わった。