剣と日輪
と受取りを憚(はばか)り、講義会場は妻瑤子の叔母小松静子のコネを利用して調達し、隊員の弁当代も無料という常磐軒側の好意に甘えていた。その事実が開口を瞬時遅らせたが、軍人魂の迸(ほとばし)りを、山本一佐本人も抑制できない。
「何だこの食卓は!ゲリラ戦を戦わんとする戦士の食卓に何でこんな御馳走が並んでいるのか!戦場では泥水を啜(すす)り、草木を食べて飢えと渇きに耐えねばならないんですよ!分かってるんですか!」
温厚な山本一佐の怒り爆発に、公威以下皆箸を置いた。
「一佐殿の仰る通りだ。私の配慮が足りなかった。すいません」
公威は背を曲げて、手落ちを認めた。
「分かれば宜しいです。明日からは気をつけてください」
「はっ。面目ない」
公威の脳中を、戦時中の記憶が過ぎっていた。
それは昭和二十年神奈川県高座の海軍工廠に、勤労学徒として赴き、上官達のサパーを目睹(もくと)した際の憤恚(ふんい)である。テーブルには山海の珍味が飾り立てられていた。
(自分たちには芋や南瓜しか食わせないくせに)
公威はあの頃の青春の貧しさを追想した。そして、
(自分はあの頃の、尽忠報国の青年に回帰しているのだ)
と実感したのだった。辺りの学生を見回し、
(彼等よりも若かった時分に)
とノスタルジーと責務を同時に、背負わずにはおれなかった。
(彼等を過ちに導いてはならない)
公威はそう自戒したのだった。
翌日から昼食は質素になった。誰も不満を洩らさなかったのは、当然の成行であったろう。
「何だこの食卓は!ゲリラ戦を戦わんとする戦士の食卓に何でこんな御馳走が並んでいるのか!戦場では泥水を啜(すす)り、草木を食べて飢えと渇きに耐えねばならないんですよ!分かってるんですか!」
温厚な山本一佐の怒り爆発に、公威以下皆箸を置いた。
「一佐殿の仰る通りだ。私の配慮が足りなかった。すいません」
公威は背を曲げて、手落ちを認めた。
「分かれば宜しいです。明日からは気をつけてください」
「はっ。面目ない」
公威の脳中を、戦時中の記憶が過ぎっていた。
それは昭和二十年神奈川県高座の海軍工廠に、勤労学徒として赴き、上官達のサパーを目睹(もくと)した際の憤恚(ふんい)である。テーブルには山海の珍味が飾り立てられていた。
(自分たちには芋や南瓜しか食わせないくせに)
公威はあの頃の青春の貧しさを追想した。そして、
(自分はあの頃の、尽忠報国の青年に回帰しているのだ)
と実感したのだった。辺りの学生を見回し、
(彼等よりも若かった時分に)
とノスタルジーと責務を同時に、背負わずにはおれなかった。
(彼等を過ちに導いてはならない)
公威はそう自戒したのだった。
翌日から昼食は質素になった。誰も不満を洩らさなかったのは、当然の成行であったろう。