剣と日輪
(いい眼光だ)
山本一佐は、
(大東亜戦争に散った戦友達と、同じ眼をしている)
と戦時中の苦難に満ちた充実した日々を、ふと思い起こした。
鬼畜米英という大敵は、余りにも巨大過ぎた。敵だからといって直ぐに討つ、というのは短絡的な指向に過ぎないのだ。
(失敗を繰返してはならない)
山本一佐は、
「誰が日本の巨悪なのか、私には分からない」
と逃げた。
必勝は山本一佐の退散に、きょとんとしている。無言で山本一佐の肩を見送っただけであった。
公威はゲリラ戦術の講義を聴講していく内に、
(何て卑怯な戦法だ。武士の戦術ではない)
と不満を持つようになった。ゲリラ戦とは要するに騙しのテクニックであり、そこには道義も何も存在しない。仁義無き戦いではないか。
公威は講義の中で、ストレートにこの憤懣(ふんまん)を山本一佐にぶつけた。山本一佐は、
「孫子の兵法にも書いてある。戦争とは謀略を駆使して敵を誑(たら)し込み、追い落とすものなのです。特に味方が小勢ならばそうせざるを得ない。そこには一般的な道徳通念は介在しない。ただ勝敗があるのみである。仁義無き弱者の戦いが厭ならば、滅びるしかない」
現代の武士たらんとする公威にとっては、できれば正々堂々たる正義の戦いが理想である。 が、戦争というものは、醜い惨劇なのだ。山本一佐は第二次世界大戦に従軍してみて、そう痛感している。公威は、
「それが現実ですね」
と納得しようとしていた。
四日間の特別講義が終了した翌クリスマスの夜、公威は山本一佐の自宅にお礼の電話をかけた。
山本一佐は、
(大東亜戦争に散った戦友達と、同じ眼をしている)
と戦時中の苦難に満ちた充実した日々を、ふと思い起こした。
鬼畜米英という大敵は、余りにも巨大過ぎた。敵だからといって直ぐに討つ、というのは短絡的な指向に過ぎないのだ。
(失敗を繰返してはならない)
山本一佐は、
「誰が日本の巨悪なのか、私には分からない」
と逃げた。
必勝は山本一佐の退散に、きょとんとしている。無言で山本一佐の肩を見送っただけであった。
公威はゲリラ戦術の講義を聴講していく内に、
(何て卑怯な戦法だ。武士の戦術ではない)
と不満を持つようになった。ゲリラ戦とは要するに騙しのテクニックであり、そこには道義も何も存在しない。仁義無き戦いではないか。
公威は講義の中で、ストレートにこの憤懣(ふんまん)を山本一佐にぶつけた。山本一佐は、
「孫子の兵法にも書いてある。戦争とは謀略を駆使して敵を誑(たら)し込み、追い落とすものなのです。特に味方が小勢ならばそうせざるを得ない。そこには一般的な道徳通念は介在しない。ただ勝敗があるのみである。仁義無き弱者の戦いが厭ならば、滅びるしかない」
現代の武士たらんとする公威にとっては、できれば正々堂々たる正義の戦いが理想である。 が、戦争というものは、醜い惨劇なのだ。山本一佐は第二次世界大戦に従軍してみて、そう痛感している。公威は、
「それが現実ですね」
と納得しようとしていた。
四日間の特別講義が終了した翌クリスマスの夜、公威は山本一佐の自宅にお礼の電話をかけた。