剣と日輪
 山本一佐は事件後、その全容解明に従事した経験がある。
(若し楯の会の実弾訓練に自衛隊が協力をすれば、三無事件の二の舞としてマスコミに叩かれるのは、間違いない)
 山本一佐は、
「それは自重された方がいい。マスコミに楯の会叩きの好材料を与えることになる」
 と否定的だった。公威は不服気だ。
「ではどうやって、実戦の腕をみがけばよいのか」
 山本一佐は妙案を思いついた。
「猟友会なんてのはどうです?私も会員ですが、腕前の確かな人達が揃ってますよ」
「猟友会?」
 公威は、
(俺達は猟師か)
 と突っ込みかけたが、止めた。山本一佐の穏便に済ませたいと願う下心が、見え見えだったからである。
「それならば、話は早そうだ」
 公威はそう好意的に皮肉った。
 場は何時しか民間防衛、間接侵略、治安出動といった物騒なワードが飛交う議論場と化していた。公威と山本一佐は、隊員達の青臭い論戦を見守っていた。論議が一段落ついたところで、公威が問題提議をした。
「民間防衛とは、日本の文化を護り、民族の誇りを取り戻す事だ、と我々は主張している訳だ。では、守るべき状況のボーダーラインとは、どんな事態だろうか」
 隊員達の発言はぴたりとやんでしまった。それは正に、楯の会が決起すべき秋を意味している。軽々には口を開けない。公威は一人一人に視線を投げかけていた。そして山本一佐を睚(がい)眦(さい)したのだった。
 山本一佐を全員が注目している。公威は韜晦(とうかい)の場を塞ぎ、山本一佐に本音を吐かせようとしていた。そして、
(一佐殿。一体何時になったら決起するんですか)
 と迫っているのだ。
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