剣と日輪
「うめえ」
 真先にシチューに手をつけた必勝が、舌舐めずりした。
「おっこれはいける」
 公威までが、
「帝国ホテルのより美味い」
 とシチューをかきこむと、グロテスクな見た目に匙を投げかけていた持丸以下も、そっとシチューを口に運び出した。
「意外といけるなあ」
 神奈川大学生の古賀浩靖が魂消ると、
「うめえや」
 と同じ神奈川大のチビコガ小賀正義の面も皺くちゃになった。グチョグチョのシチューは、それでも鯖缶等の缶詰に比せば、上等だったのだ。隊員達は、
「これが、粗食に耐えるということなのだな」
 と実感したのである。
 二月二十二日の夕飯は、打ち上げ会となり、隊員達は二級酒やウイスキーを持ち寄って反省会を兼ねた夜宴を張った。隊員達は丸で苦行から解き放たれた修行僧のようだった。皆大酒を飲み、缶詰を平らげ、喉を自慢しあっていた。公威が大はしゃぎで、
「からっ風野郎」
 を唱曲(しょうきょく)する傍らで、山本一佐は前日に公威が洩らした内容を思い返していた。
 公威は山本一佐に、
「私以外の九名に刀剣を渡します」
 とゆるりと宣明し、返事も聞かずに立ち去った。刀剣を渡して如何こうする等とは一言も言わなかったが、山本一佐には、
(それが特攻テロの実践チームだろう)
 と予想できた。
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