剣と日輪

　田中清玄の経歴は複雑怪奇である。戦前は武装共産党の中央委員長であったが、獄中で母の自殺に深く感じ入って転向。紆余曲折後土建屋となり、右翼の大物と噂されながらも、全学連に資金提供したりしている人物である。
「法螺吹き」
「政界のフィクサー」
　という悪評に塗れた怪物であった。
「あのような人物から資金提供を受けると、当座は凌げても、後々ろくなことにはならんぞ」
　公威は最後は訴えるようにして二人を口説いたが、中辻と萬代は、
「他に論争ジャーナルが生き残る道がない」
　の一点張りだった。田中がどのような怪人であろうと、実際に金を出してくれるのは、彼だけなのだ。
　三人の話合いは噛合わず、結局中辻と萬代は八月末で脱会したのだった。後を追うように九月初旬に学生長持丸が楯の会を去り、論争ジャーナルも辞めた。持丸にとって、公威と中辻の対立は耐え難いものであり、ひっそりと両陣営から身を引いたのだった。その他中辻、萬代を慕って数名の隊員も脱会し、その総数は十余名に及んだ。
　中辻と萬代の脱会には、
「当然だ」
　と怒りを露にし、二人に続いた隊員の脱退も、
「致し方なし」
　と追認した公威も、持丸との離別だけは惜しんだ。片腕と目していた持丸の悲(ひ)心(しん)を思い、胸がしめつけられたが、後任者を決めねばならない。
「森田しかいないな」
　公威は必勝を二代目学生長に任命した。秋の気配が色付き始めた長月に、公威と必勝は遂に生涯のパートナーたる位置に立ってしまったのである。