剣と日輪
 公威には、三谷の心情がありありと窺える。
「有難う。何れ僕も行く」
「ああ。同じ部隊だといいな」
「そしたら、君が上官だ。何しろ僕は二等兵だから」
「はは。天才作家も形無しだな。扱いてやるよ」
「お手柔らかに」
 公威と三谷はシェイクハンドをした。
「お兄さん。そろそろ」
 邦子が三谷を促した。
 可憐な留守家族である母親と三人の妹が、三谷を送り出そうとしている。公威は彼女達に会釈したが、視線の先には邦子のみが存在していた。
 邦子の膝丈に白地のスカートは、
(もんぺやズボン、国民服や制服、スーツ、和服ばかりの群衆の渦中に在って、愛執のシンボルみたいだ)
 と公威には認得された。
「元気で」
「うん」
 公威と三谷は、戦場での再会を期して別去したのだった。三谷は忽ち四人の女性に包み込まれ、そのまま改札口を通過し、プラットホームの人込みに紛れて行った。
 公威は、
(邦子さん達を待とうか)
 とも考えたが、
「花ざかりの森」
 の誤植の件が気懸りでならない。公衆電話を目にすると歩み寄り、七丈書院に電話し、略歴の誤りを指摘した。
 七丈書院側は率直に公威に詫び対処として、
「四年」
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