剣と日輪
 と丸い瞳で応えた。
 梓は天皇の藩屏たる官僚出身である。軍医に面談して真偽を問うたところ、
「お気の毒ですが、結核の三期だと思われます。帰られて、息子さんを入院か静養させてください」
 との確答を得た。
(ああ、これで公威を死なせずに済む)
 若年の軍医が、梓には天使に感ぜられた。が、肩を落す振りをし、
「そうですか。残念ですが仕方ありませんね」
 と一礼をして、公威に合流した。
 公威は、能面で梓に取り次いだ。
「お父様、軍曹殿がお呼びです」
「えっ。そうか」
 父子はいそいそと別室に入室した。其処には中年の軍曹が直立しており、ニ人の貧弱そうな若輩が並列している。公威は黙したままその列に加わった。梓も父兄に混じっている。
「諸君」
 軍曹は悲痛な顔容である。
「君達は本日遺憾ながら入営できないこととなった。さぞ無念であろうが、銃後を安んじ奉るのも亦報国の道である。気を落とす事無く、滅私奉公に勤しんで頂きたい。ご苦労でありました」
 軍曹は一同に敬礼をすると、退出していった。
「公威」
「はい」
「帰るぞ」
「はい」
 父子は連れ立って出口へ進んだ。
 梓は戸口に佇立している兵に、
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