剣と日輪
「自分は自衛官として、政府の側に立っている。自分の行動はだから自衛官という立場を逸脱しては、語れない」
「それで?」
公威には分かっている。山本一佐は軍人という人格を与えられていない浮草の如き自衛官であり、政治家でも国士でもないことを。それでも公威は、
(山本一佐が覚醒し、祖国の為に起ち上がってくれるかもしれない)
と幾求してやまない。
「自衛官としては、今迄行ってきた楯の会隊員への訓練を更に推し進め、体系化し、高度化し、飽く迄も合法的視野に立って、これに尽力していく他は無い。そう考えています」
「長期的展望以外考えられないと仰るのですね」
「そうです」
山本一佐ははっきりと言い切った。
三者間に歪のような濁流が、渦巻いていた。必勝は静黙(せいもく)し、公威は、
「もう言葉も無い」
といった風情だった。
「分かりました」
公威は吹っ切ったように、この場を締めた。
山本一佐は小林荘からの帰路、
(これでよかったのだ。俺は楯の会隊員の命を救ったのだ)
と楯の会の無謀な画策をきっぱりと否定した己の勇気を、自画自賛しようとしていたのだった。
必勝は楯の会学生長に就任してから、急に羽振りがよくなった。
「活動費」
として月々公威から数十万円を、支給されていたからである。煙草は八十円のハイライトを根元迄吸いきっていたのが、百円のセブンスターになり、半分過ぎると未練なく灰皿に擦り付けるようになった。行き付けのスナック、
「パークサイド」
にはウイスキーのボトルを数本キープして、隊員達に、
「自由に飲んでいいぞ」
と振舞った。古賀や小賀、小川等は大喜びで、遠慮なく必勝の御相伴に与(あずか)った。
「それで?」
公威には分かっている。山本一佐は軍人という人格を与えられていない浮草の如き自衛官であり、政治家でも国士でもないことを。それでも公威は、
(山本一佐が覚醒し、祖国の為に起ち上がってくれるかもしれない)
と幾求してやまない。
「自衛官としては、今迄行ってきた楯の会隊員への訓練を更に推し進め、体系化し、高度化し、飽く迄も合法的視野に立って、これに尽力していく他は無い。そう考えています」
「長期的展望以外考えられないと仰るのですね」
「そうです」
山本一佐ははっきりと言い切った。
三者間に歪のような濁流が、渦巻いていた。必勝は静黙(せいもく)し、公威は、
「もう言葉も無い」
といった風情だった。
「分かりました」
公威は吹っ切ったように、この場を締めた。
山本一佐は小林荘からの帰路、
(これでよかったのだ。俺は楯の会隊員の命を救ったのだ)
と楯の会の無謀な画策をきっぱりと否定した己の勇気を、自画自賛しようとしていたのだった。
必勝は楯の会学生長に就任してから、急に羽振りがよくなった。
「活動費」
として月々公威から数十万円を、支給されていたからである。煙草は八十円のハイライトを根元迄吸いきっていたのが、百円のセブンスターになり、半分過ぎると未練なく灰皿に擦り付けるようになった。行き付けのスナック、
「パークサイド」
にはウイスキーのボトルを数本キープして、隊員達に、
「自由に飲んでいいぞ」
と振舞った。古賀や小賀、小川等は大喜びで、遠慮なく必勝の御相伴に与(あずか)った。