剣と日輪
「金に糸目はつけん。金沢一の料亭に行こう」
 と豪語するので茂は、
「一遍行ってみたかった」
 と前置きし、
「つば甚へ行こう」
 と喜楽した。
「どんなとこや」
「二百年以上の伝統のある高級割烹料理店や。高いよ」
「ようし、それいこ」
「やったあ。つば甚で食事できるなんて夢みたい」
「茂の入学祝だからな」
「まかやん、有り難う」
 必勝と茂は銭湯を出ると、犀川大橋を渡ってつば甚の暖簾を潜った。予約制とのことだったが必勝は、
「こんどらんやないか。便所の前でもええから」
 と頼み込んで席を確保してもらったのである。
 月の間で、
「豊穣(ほうじょう)の宴」
 というコース料理を、二人は摘(つま)んだ。酔いが回ると必勝は公威の話をし、楯の会を語った。
「茂も楯の会に入らんか。北陸支部長に任命してやるぞ」
 必勝は茂の御猪口に酒を注ぎながら、そう勧誘した。
「でも、自衛隊で一月訓練せんといかんのやろ?」
「うん。結構楽しいぞ」
「俺は駄目や。体力ないから」
「情けないなあ」
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