剣と日輪
「では、これで失礼します」
 公威は懸案事項の話題をのぼらせることなく、応接間を出た。玄関で草履を履くや、
「一佐という人は、冷たい人だ」
 と山本夫人に告げた。それがひょうげた調子だったので、
「まあ、すいませんことで」
 と山本夫人は頭を下げてしまった。
(やるんなら、私が現役の内に頼みますよ)
 山本一佐は声にはならなかったが、そう答えた。
 公威と共に立ち上がるにせよ、彼を討伐するにせよ、自衛官として対応せねばならない。
(それのみが自分にできる、三島さんに対する精一杯の誠だ)
 山本一佐には、それ以外に道は無い様に感ぜられていた。

< 317 / 444 >

この作品をシェア

pagetop