剣と日輪
 二人はあれこれと協議を重ね、第五班班長小賀正義、第七班班長小川正洋の二名に白羽の矢を立てたのだった。両名は在京している。
「二人には私が打診しよう」
 公威はそう請負った。
「田中は頼むぞ」
「はい」
 体験入隊終了後、公威と必勝は夫々の勧誘に向けて早速動き始めたのである。
 必勝は福井行きの北陸本線電車内で、楽天的だった。
(あの田中の事だ。ツウカアでオーケーだろう)
 と高をくくり、近江と越前の優美な風光を楽しみながら、駅弁を賞味していたのだった。
 福井の田中家は素封家らしい、長大な屋敷だった。
「御免ください」
 と必勝が呼ばわると、玄関にでてきたのは田中の父である。骨柄逞しい田中の父にしては柔弱な印象を受けた。
「東京で田中君と同居している森田といいます」
 必勝は楯の会学生長の名刺を渡した。田中の父上は、
「健一は今居らん」
 と素気ない。
「どちらへ?何時御帰りですか?」
 と必勝が尋ねると、田中の親は顰(しか)め面になった。
「あれは家の大事な跡取りや」
 田中の父は必勝の手をとり、哀願した。
「頼む。このとおり頭を下げるから、息子を危ない目にあわさんで下さい。わし等夫婦のたった一人の男の子や。本当に頼むから、お願いします」
 初老の親御は、既に必勝の来訪意図を見抜いている。

< 323 / 444 >

この作品をシェア

pagetop