剣と日輪
(日本こそが俺の両親であり、その復活の為に命を捧げるのだ。田中と何等変わりはない)
 と宿命を大悟(たいご)したのだった。

 公威は四月三日金曜日に帝国ホテル内の珈琲ショップに小賀正義を呼び、最終計画を打明け、参加の有無を確認した。小賀は、
「是非加わらせてください」
 と諒承した。
 小川正洋は四月十日金曜日に平岡邸に招かれ、極秘の最終計画を伝えられた。小川は、
「楯の会と自衛隊有志が共同して国会を占拠し、憲法改正を断行する」
 というプランに快哉を叫び、
「壮挙に加わりたい」
 と嘆願したのだった。
 公威は自衛隊との共同戦線に、望みを失いかけていた。小賀と小川にも、
「自衛隊幹部の実情から、或いは楯の会だけの決起になるかもしれない。それでも加わるか」
 と念押しをしている。小賀も小川も、
「構いません」
「もとより死は覚悟しています」
 と頼もしい限りだった。
「有り難う。決して犬死はさせない」
 公威は両隊員に熱涙を流し、そう確約したのだった。
 三月十四日に開幕した大阪万博が盛況を極めていた五月になっても、公威は未だ山本一佐に一縷(る)の期待を寄せていた。六月に入った或る日の午後、その山本一佐が大鉢に開花しかけたサボテンの紅孔雀を抱えて、平岡家にやって来たのである。
 前日の電話で、
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