剣と日輪
「岳父が紅孔雀を是非三島さんに贈りたいとのことなので、持っていきます」
と山本一佐の低音を聞いた時、公威の胸宇(きょうう)は高鳴ったのだった。刀剣を腰に山本一佐邸を訪れて以来の、接触である。
(若しかしたら、誠意が通じたか)
淡い夢想に公威は全てを託そうとした。
山本一佐は玄関で待っている間、ふと視線を背中に感じ振り返った。前庭の植木に腰を下ろし、山本一佐を監視している眼鏡をかけた枯木のような老人が居た。
(あっ。三島さんの御父さんだな)
山本一佐はそう見当をつけ、会釈をした。梓は会釈を返さず、微かに入れ歯を見せてくれた。
「やあ、どうも」
公威は鮮明な紅孔雀には触れず、
「どうぞ」
と先導してくれた。山本一佐は大鉢をメイドに体全体を使って譲渡し、紅孔雀は玄関前の前庭に一先ず置かれた。山本一佐は二階にある公威の書斎へ通されたのだった。
山本を机の前へ腰掛けさせると、公威はでんと椅子に仰(の)け反り、リラックスの体を作った。机上には原稿用紙がきちんと揃えてある。
「ほほう。ここで数々の名作を生み出された訳ですか」
山本一佐は公威の背後に直ぐ取り出せるよう陳列してある、無数の書物を見上げている。
「松下村塾之偉人久坂玄瑞」
「昭和叛乱史」
「二二六事件」
といった本が目に付いた。書物に埋もれた公威は、世界の文豪に相応しい風貌である。
「流石ですな。御見逸(おみそ)れしました」
「はは。一佐でも冗談飛ばすんですね」
と山本一佐の低音を聞いた時、公威の胸宇(きょうう)は高鳴ったのだった。刀剣を腰に山本一佐邸を訪れて以来の、接触である。
(若しかしたら、誠意が通じたか)
淡い夢想に公威は全てを託そうとした。
山本一佐は玄関で待っている間、ふと視線を背中に感じ振り返った。前庭の植木に腰を下ろし、山本一佐を監視している眼鏡をかけた枯木のような老人が居た。
(あっ。三島さんの御父さんだな)
山本一佐はそう見当をつけ、会釈をした。梓は会釈を返さず、微かに入れ歯を見せてくれた。
「やあ、どうも」
公威は鮮明な紅孔雀には触れず、
「どうぞ」
と先導してくれた。山本一佐は大鉢をメイドに体全体を使って譲渡し、紅孔雀は玄関前の前庭に一先ず置かれた。山本一佐は二階にある公威の書斎へ通されたのだった。
山本を机の前へ腰掛けさせると、公威はでんと椅子に仰(の)け反り、リラックスの体を作った。机上には原稿用紙がきちんと揃えてある。
「ほほう。ここで数々の名作を生み出された訳ですか」
山本一佐は公威の背後に直ぐ取り出せるよう陳列してある、無数の書物を見上げている。
「松下村塾之偉人久坂玄瑞」
「昭和叛乱史」
「二二六事件」
といった本が目に付いた。書物に埋もれた公威は、世界の文豪に相応しい風貌である。
「流石ですな。御見逸(おみそ)れしました」
「はは。一佐でも冗談飛ばすんですね」