剣と日輪
 公威は自ら瓶と小型のコップを持ち出し、酌をしてくれた。
「どうぞ。テキーラです」
「テキーラですか。いただきます」
 二人は同時に一気にテキーラを呷(あお)った。
「どうです?美味いでしょう」
「男の酒ですな」
「もう一杯」
「貰いましょう」
 公威と山本一佐は個人としては、相性が合う。ナッツを肴(さかな)に武人と自衛官は杯を重ねた。ほろ酔いになったところで、公威が、
「そうだ。楯の会のレコードができたんですよ。聴いて下さい」
 と立った。
「あ、そうですか。じゃ是非」
 山本一佐が言い終らぬ内に公威はEPレコードを取り出し、レコードプレイヤーにかけた。聞こえてきたのは、公威の朗読である。
「英霊の聲(こえ)」
 だ。
「憂国」
 と共に三島文学の核心を成す作品である。
「などてすめろぎは人間(ひと)となりたまいし」
 という畳句(じょうく)を諳(そら)んじる公威の声は、聳(しょう)然(ぜん)として特立していた。
 B面は公威作詞の楯の会隊歌、
「起て 紅き若き獅子たち」
(クラウンレコード。四百円)
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