剣と日輪
「相変らず金持ちやなあ」
 どう考えても学生の持つ金額ではない。
「これは楯の会の活動費や。俺の小遣いじゃない」
 必勝には殺気が出始めている。もう眼つきが一年前とは別人の如く、きつくなっていた。四日市市富州原に住む姉高根を三日前に訪れた際高根が、
「あんたえらいきつい顔になったねえ」
 とびっくりしていた程だった。兄治とも卒業後の進路を巡って口論となり、仲はぎくしゃくしている。治も高根もまさか必勝が十一月に一挙を計り死ぬ気である、とは露知らない。凄味さえ醸(かも)し出す弟の変貌に疑心(ぎしん)していた。
「大人になったんやろ」
 と平凡に解釈するしかなかった。
「ええなあ、学生長は」
「何がええもんか」
 駄弁に能天気になっている茂に、必勝は厳格な内実を教えたくなった。
「御前は何かをする時、命を賭けてるか」
「命?」
「どんな小さなことにもだ」
「賭けるわけない」
「そうか。俺は命を賭けとるぞ」
「ふうん」
 レジャーランド化している大学生活にどっぷりと浸かっている茂には、どうでもいい話題だった。
「俺は三島先生に会って、初めて己を知らされ我々の使命を熟知した。三島先生にはどんな事があっても、最後まで付いていく。例え地獄であろうと。茂には命を賭けても悔いの無いものが、未だ見つかっていないみたいだな」
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