剣と日輪
「分かった」
 必勝は倉田に向かい、
「隊長に提言しとくよ。倉田の発案だってな」
 と約束した。
「お願いします」
 必勝はそのまま踵(きびす)を返した。
「おい森田。さっきの話はどういうことだ」
 鶴見には何も答えず、必勝はドアーを閉めたのだった。
 十月二日金曜日。公威、必勝、古賀、小賀、小川は銀座に在る創業六十九年の老舗中華料店、中華第一楼で夜宴を持ち、
「最終計画」
 の細部を更に詰めた。
「十一月二十五日の楯の会例会を、午前十一時に開始する。閉会後隊員は一時半からヘリポートで何時ものように訓練に入る。隊長と小賀は十二時半に葬式出席を理由に市ヶ谷を去り、日本刀を携え、途中パレスホテルに待たせてある懇意の新聞記者二名を、連れて戻る。記者は車に待たせて、五人は刀を夫々携帯して、連隊長を拘束し、自衛官を集める。隊長が決起を呼びかけて後切腹。四人も後を追う」
 プランの骨子が議定された後、鱶(ふか)鰭(ひれ)の姿煮を満喫しつつ必勝が公威に今更のように訊いた。
「前から訊こう訊こうと思ってたんですが、何で十一月二十五日なんです?何か意味があるんですか?」
 三人もレンゲを置いて、公威を仰瞻(ぎょうせん)している。
「そのことか」
 必勝も青島ビールのコップを、降ろした。
「別に大した意味は無い。私個人的には重大な意味を持つんだが」
「教えてください」
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