剣と日輪
 死士五名は第一中華楼で飲んだくれ、新宿の必勝行きつけのバー、
「パークサイド」
 でウイスキーに酔っ払ったのだった。

 十月十九日午後四時十分。公威等五名の行動者達は楯の会制服を着、半蔵門東条会館写真部で、
「遺影」
 を撮影した。公威は椅子に腰掛け、必勝、古賀、小川、小賀が後に一列に並んだ。公威はやつれていた。必勝は限りない未来を見詰めていた。二十年の差がそこにあった。静謐(せいひつ)と雄渾を湛えた一枚のポートレートは、目深に被った帽子の射影の中に、爛漫たる闘志を垣間見せていた。

 十月二十三日金曜日。山本一佐が午後七時に帰宅すると、夫人が声をかけた。
「先程から二回も、三島先生から電話がかかりましたよ。急いでらっしゃるようでした」
「そうか」
 山本一佐は六月に公威に紅孔雀を贈呈してから、久しく顔をあわせていない。
「何事かな」
 山本一佐が呟くや、電話のベルが鳴った。
「出よう」
 一佐は受話器をとった。案の定公威からだった。
「もしもし山本ですが」
「山本一佐殿ですか」
「はい」
「三島です」
「ご無沙汰しております。何度も御電話いただいたそうで」
「ええ。今夜、これから御話に伺いたいのですが。ご迷惑でしょうか。どうしても話したい事があるんです」
 公威の語感には切羽詰ったものがあった。断れなかった。

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