剣と日輪
「いえ、構いませんよ」
「では、これから伺います」
「お待ちしております」
「夕食はもう済ませましたので」
(相変らず気遣いを忘れぬ人だ)
「分かりました」
 山本一佐は不吉な予感に襲われた。
(まさか最後の別れを言いにくるんじゃあるまいな)
 午後八時。山本邸の玄関先に、黒のジョニーウォーカーを掲げた公威が立っていた。
「一杯飲みながら」
「いいですねえ」
 久方の再会にも、異なる路線を歩んでいるにも関らず、二人は意気投合する。相性だけは抜群だった。
 洋間のソファーに腰掛けた公威は、以前よりも温和になったように見受けられた。だが、
「ガハハ」
 笑いは絶え、楯の会の活動報告を始めたのである。
「今日はねえ。隊員と共に火葬場と給電指令所で演習をしてきたんですよ。実に疲れた。併し実りの多い訓練でした」
 山本一佐は公威の語勢に拒絶反応を引起した。
(火葬場で演習?いかん。聞いてはいかん)
 山本一佐の自己防衛本能は、冴え渡っている。
「まあまあ、そんな話より飲もうじゃありませんか」
 おりよく山本夫人が松茸とししゃもを皿に盛り付けて入室してきた。
「親戚から送られて来た松茸が丁度ありまして」
 山本夫人はにこやかだった。
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