剣と日輪
「いいな。いこいこ」
「紀子舞妓さん見たい」
「おお、いいなあ。父ちゃんも見たい」
 瑤子は、
(一体この人は、何を考えているのかしら)
 と呆れかえったが、それ以上は何も問わなかった。平岡家の家長は公威であり、彼の為す事は絶対だったからだ。
 中秋の東海道を新幹線で三時間も走れば、もう古都京都だった。関西人嫌いの公威も、京都・奈良の、
「大和平安」
 の風情には、心奪われるものがある。奈良・京都は日本人の原風景であり、朝廷発祥の地でもある。
「日本」
 をこよなく愛する公威にとって、関西は、
「日本文化」
 の温床に思われてならない。
 公威にとって、
「武士道」
 の故郷は神風連の地熊本であり、
「大和心」
 の故郷は京都・奈良なのだった。
(威一郎と紀子にも見せてやりたい)
 来月滅する定めを選択した父親の、子供達への最後のプレゼントだった。
(俺が死守すべき日本文化の粋を見せてやりたい)
 公威はそんな本願を垣間見せることなく、愉しげに金閣寺や清水寺、京都御所等を親子水入らずで観光して回った。
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