剣と日輪
 紀子は偶々出くわした芸子はんにうっとりし、
「あんなの着てみたい」
 と駄々をこね、友禅の着物を購入してもらったりした。
 威一郎は余り京都に興味を示さなかった。ただ太秦映画村で売られていた刀剣類には幼心を擽(くすぐ)られ、こちらは玩具の刀や槍をおねだりしたのだった。
 宿は文政元年創業の老舗旅館、柊(ひいらぎ)家にとった。京都市中京区麩屋町姉小路上ル中白山町に所在する、維新の志士達も定宿にしたという名旅館だ。槇の家族風呂に四人で浸かり、背中を流しあった。坪庭を配された数奇屋(すきや)造りの和室には、京風会席料理がずらりと配膳され、瑤子は夢心地である。
「こんなに幸せで、いいのかしら」
 瑤子が酌をしながら感喜すると、公威は、
「いいのさ。人間五十年だからな」
 と杯を空けた。
「どうぞ」
 公威が注いだ酒を、瑤子は飲み干す。
「いけるね。もう一杯。今夜は酔いつぶれてもいいぞ」
「ほんと?」
「僕が子供をみる」
「じゃあ、頼むわ」
 瑤子は遠慮なく美酒に酔うことにした。
 公威は紀子と騒ぐ威一郎を見遣りながら、仲居の八重さんに、
「この子は俺の跡継ぎとしてやっていけるのかねえ」
 と暴れっぷりにお手上げという仕草をした。
 中年増の八重は真面目くさった瓜実顔で、
「この坊ちゃんなら大丈夫や。十分やっていけますえ」
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