剣と日輪
天人五衰編唐獅子牡丹
 到頭十一月になった。紅葉の真紅が、公威にある決答を導き出させていた。
「二十代の青年四名は、何も自決する事は無い」
 と思い返したのである。そう自省するや公威は十一月二日月曜日に必勝と楯の会事務所で会い、
「御前は死んではいかん。まだ二十五だ。死ぬのは俺一人でいい。生きて報国の道を歩め」
 と自死を思いとどめさせようとした。
 必勝は決然反論した。
「先生を御一人で死なす事など、僕にはできません。追腹を切ります」
「何故だ。私はそれを望んでいない。御前まで死んでしまったら、私の志を受け継ぐ者がいなくなってしまう」
「先生がどうしても志を継いで尽忠報国の道を歩んで欲しいと言われるならば、その役割を古賀、小賀、小川に任せて欲しい。自分は先生と共に殉国します」
「どうしてもか」
「はい。自分の意志は不変です」
 公威は数十年の限りなき未来を国と公威に奉呈せんとする必勝に、心打たれていた。
(そこまで決意した者に、どうして翻意を促せようか)
「森田」
「はい」
「俺は御前が羨ましい。俺が御前位の頃は、自分の事しか頭に無かった。御前は偉いよ」
「そんなことはないです。浅学非才なので、ただ命しか瀕死の日本と先生の雄志に提供できないのです」
「そんなことはないさ」
 そして師弟は固く誓約した。
「後の三名だけは、なんとしても生かさねばならない」
 と。
 
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