剣と日輪
「いいなあ、俺なんか死ぬと分かってても、別れを告げる女がいない」
「奥さんがいるじゃないですか」
「奥さんか」
公威は最早瑤子を女としては見ていない。瑤子は賢母であり、よくできた嫁であった。
「妻がいる限り、我家は安泰さ」
公威もビールを空けた。
「俺のタイプは藤純子に、佐久間良子、若尾文子だな。作家になってよかったと思うのは、彼女達に会えたこと位かな」
公威は座を明るくせんと、四方山(よもやま)話に花を咲かせた。
「俺も役者をやり、役者と名の付く連中と随分付き合ったが、一番傑作な奴は勝新太郎だったよ」
座頭市でスターの地位を不動のものにした、
「勝新」
とのエピソードを、公威は面白おかしく聞かせた。隊員達は、
「あの八方破れのキャラクターは地だぜ」
と舌を巻いていた。
一時間後、赤間が座敷に顔を出すと、公威は腕枕をして寝そべり、隊員達は黙想していた。
(あらまあ。疲れちゃったのかしら)
赤間は愛想良く振舞いながらも、尋常でない何かを感じ取らずにはおれなかったのである。
公威は赤間が退室すると起き上がり、
「明日がその日だというのに、何の事は無いな。センチメンタリズムなんてものは、物語なんだな」
と呟いた。皆同感である。必勝には悲愴感は無く、ただ次の一句が浮んだだけだった。
「今日にかけてかねて誓いし我が胸の思いを知るは野分(のわき)のみかは」
必勝の辞世に、公威は賞辞を与えた。そしてもう一句辞世の歌を、発句したのである。
「奥さんがいるじゃないですか」
「奥さんか」
公威は最早瑤子を女としては見ていない。瑤子は賢母であり、よくできた嫁であった。
「妻がいる限り、我家は安泰さ」
公威もビールを空けた。
「俺のタイプは藤純子に、佐久間良子、若尾文子だな。作家になってよかったと思うのは、彼女達に会えたこと位かな」
公威は座を明るくせんと、四方山(よもやま)話に花を咲かせた。
「俺も役者をやり、役者と名の付く連中と随分付き合ったが、一番傑作な奴は勝新太郎だったよ」
座頭市でスターの地位を不動のものにした、
「勝新」
とのエピソードを、公威は面白おかしく聞かせた。隊員達は、
「あの八方破れのキャラクターは地だぜ」
と舌を巻いていた。
一時間後、赤間が座敷に顔を出すと、公威は腕枕をして寝そべり、隊員達は黙想していた。
(あらまあ。疲れちゃったのかしら)
赤間は愛想良く振舞いながらも、尋常でない何かを感じ取らずにはおれなかったのである。
公威は赤間が退室すると起き上がり、
「明日がその日だというのに、何の事は無いな。センチメンタリズムなんてものは、物語なんだな」
と呟いた。皆同感である。必勝には悲愴感は無く、ただ次の一句が浮んだだけだった。
「今日にかけてかねて誓いし我が胸の思いを知るは野分(のわき)のみかは」
必勝の辞世に、公威は賞辞を与えた。そしてもう一句辞世の歌を、発句したのである。