剣と日輪
「益荒男(ますらお)がたばさむ太刀の鞘鳴りに幾とせ耐えて今日の初霜」
 五名は午後八時に新橋末げんを出た。出際に女将の丸武子が、
「有り難うございました。又のお越しをお待ちしております」
 と見送ると、公威はドキッとして目玉を引ん剥いた。だが直ぐに、
「明後日又来るかな」
 と言笑(げんしょう)したのだった。

 公威は車中の人となり、小賀が運転するコロナで、夜道を走行した。公威は運転免許を取得しているが、是まで運転したことは余りない。初運転で脱輪してしまい、以来運転技術の無さに嫌気がさして、年に数回しかハンドルを握った試しが無いのである。
 公威は車中、
「益田陸将には誠に申し訳ないが、見事腹を掻っ捌(さば)いてお詫びすれば、許してもらえよう」
 と語言した。又、
「総監室に入る前に自衛官に気取られて、乱闘にでもなったら、俺達は舌を噛んで全員死ぬしかない」
 とも洩らした。
(そうだ。見事成功して切腹できるかどうかは、分からないのだ。だが舌を噛んで死ぬのは厭だ。立腹を切って、臓物を自衛官に投げつけてやる)
 必勝はそう心に決めた。
 公威は緑色の手帳を取り出すと、古賀に授けた。
「これを焼いておいてくれ。今迄の経緯が克明に記してある」
「分かりました」
 古賀はグリーンのメモ帳を、ポケットに隠した。古賀、小川、小賀の三名は明日逮捕され、法廷で裁きを受けねばならない。少しでも三人の罪を、軽くしようとしたのである。法科出身の公威には、三人がどういう罪科で
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