剣と日輪
 梓が呼び止めた。
 公威は振り返る。
「煙草は一日何本のむ?」
「ピースを三、四十です」
「今朝の新聞にも出ていたが、煙害は恐ろしいぞ。肺癌(がん)にならない内に、数を徐々に減らしていきなさい」
 公威は、
(明日死ぬのに、肺癌も何もあるもんか)
 と言い返したかったが、
「分かりました」
 と誓ってみせた。
「宜しい」
「体を労(いたわ)りなさい」
「はい。じゃあ」
 公威は再びテラスから、八メートル程先にある家の玄関にとぼとぼと歩月(ほげつ)していった。倭文重はそのたった八メートルを公威が無事帰れるかどうか心配で、公威が玄関を潜るまで、じっと見守ったのだった。

 必勝は小林荘に帰宅したが眠れず、同室の田中健一と新宿西口公園近辺にあるお茶漬屋、
「三枝」
 へ繰り出し、酒を酌み交わした。
 必勝はメモと、A5サイズの角封筒二通を田中に渡した。封筒の宛名は、
「サンデー毎日」
 の記者徳岡孝夫と、
「NHK社会部記者」
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